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味覚の仕組み

こんにちは。歯科医師の小松です。
季節の変わり目で体調を崩しやすい
時期ではありますが、皆さまお変わりはありませんか。
メディアでは連日、新型コロナウィルスの大流行が報道されています。
手洗い、うがいなどの感染対策をしっかり行い自分の身を守りましょう。

さて、皆さまは普段どのように味を感じているのかご存知ですか?
我々は毎日の食事を通じて身体に必要不可欠である栄養素を摂取する事で生命活動を維持しています。
そして、この食事をとる際に無意識に味覚を用い、様々な味を感じ取っています。今回はその味覚の仕組みについてご説明したいと思います。

○味を感じるしくみ

ヒトの味覚の大部分は舌表面で生じます。(その他には軟口蓋 咽頭 喉頭など)
舌の表面には糸状乳頭、茸状乳頭、葉状乳頭、有郭乳頭と呼ばれる突起状の構造が4種類存在しています。

※糸状乳頭は舌全体に点在

糸状乳頭以外の乳頭には味蕾という味を受け取る受容器が存在しています。
味蕾の寿命は約10日で、成人で5000~7500個、高齢になるほど減少傾向にあります。

この味蕾を構成する細胞は50~150個。さらにこの中の一部に存在する味細胞は唾液や水に溶けた飲食物に含まれる化学物質(味)を受容し、信号として神経を伝導し、脳によって味の種類を感知できるというシステムになっています。

味細胞の中にはⅡ、Ⅲ型細胞が存在しており、Ⅱ型細胞は甘味 苦味 うま味を受容し、Ⅲ型細胞は塩味 酸味を受容します。
そしてこの苦味、酸味、塩味、甘味、うま味は5基本味と言われています。
苦味の感受性が最も強く、これはエネルギー源や栄養源となる好ましい味と腐敗物や毒物など人体に有害となる回避すべき味を識別し、食物を取捨選択する役割を果たしています。

また20世紀まで、これら基本味の感受性は舌の位置によって異なることが古くから言われてきましたがそのような証拠はなく、2000年に米国のグループにより舌全体の味蕾でそれぞれの味を感じ取っていることが明らかになりました。
このようにヒトの持つ味蕾によって化学物質(味)を受容し、電気信号として脳に伝わり、認識することで味を識別するというシステムになっています。

○近年の味覚の研究について

しかし近年では味覚に関するシステムの研究が進歩したことで機械による味の判別が可能になりました。
味を分析したのは、九州大がベンチャー企業などと産業連携でつくった味香り戦略研究所の分析機。
5基本味に渋味を加えた味の評価を新開発の味覚センサーを用いることで流れる電位差から味を数値化することに成功しました。
ある食品メーカーがこの味覚センサーを用いて自社が数多く取り揃えていたドレッシングの味を分析したところ、味の方向性が偏っていたことが判明し、新商品の開発に繋げることが出来たそうです。
その他には果物や野菜の品種改良においても参考にされているといいます。

味覚センサー(味認識装置)https://www.irie.co.jp/products/taste-ts-5000z/

近年、このような機械による味の評価が進められている中、東京大学大学院農学生命科学研究科 三坂巧准教授は解明された味覚のメカニズムを応用し、2010年 味蕾の遺伝子を腎臓由来の細胞に組み込み、甘味を感じると赤く写るように反応する甘味センサー細胞を開発しました。
これは電位差や果汁の濃度から代替的に甘味を測定する糖度計と異なり、実際に人が味を感じる仕組みを再現し、甘みの強さを2分間ほどで測れるという仕組みになっています。
つまりこの甘味センサー細胞は、ヒトが感じる甘味に近い数値を示すことができます。
人の経験と感覚に頼ってきた味覚の計測からいかに脱却するかが大きな目標と三坂准教授は話します。
この研究は産業界からも注目されているようで、将来的に臨床に活かすことが出来るようになれば、味覚センサー同様、食品開発や新たな応用領域にも役立つであろうと確信しています。

また味蕾そのものの研究も進んでいます。
これまで苦味は毒の可能性がある物質を正確に見分けるために多くの種類を感じられるようになったという説から苦味の受容体は25つ存在することが分かっています。
しかし、なぜ甘味の受容体は1つのみにも関わらず砂糖や人工甘味料などの様々な甘味物質を同じように甘いと感じられるのかについては今まで解明されていませんでした。
しかしこの仕組みについては、岡山大の山下敦子教授の研究チームが2017年に大型放射光施設スプリング8を用いたメダカの味覚センサーの詳しい構造の解明により明らかになりました。
実際、甘味やうま味をキャッチする味細胞の受容体は柔軟な形をしており、食物を構成するアミノ酸(αアミノ基やカルボキシル基等)の一部分の構造を認識することで受容することができているというものでした。
一方で体の仕組みを整えるアドレナリンやドーパミンなどのホルモンに対する受容体は厳密にできており、不用意に神経が過敏になることや、血糖値が乱高下するのを防いでいます。
甘味や旨味など生命維持に必要な味覚に関しては幅広くおいしいと感じられるように限られた遺伝子情報で生命活動を維持できるように作られた仕組みなのかもしれないと山下教授は話します。

○まとめ

味覚の仕組みについてはいかがでしたか?
ご紹介してきました通り、現在様々な分野で味覚についての研究が進んでいます。
しかし味覚の研究は他の感覚の研究に比較して非常に遅れており、視覚の研究は30年、嗅覚の研究は10年ほど進んでいます。
味覚の受容体に関して分かってきたのは2000年以降の話です。
この発見以降一気に研究が進み、味覚の仕組みが徐々に解明されてきたことで機械による味の分析が可能になりました。
視覚や聴覚と異なり、記録や再現の難しい味覚にとって大きな一歩であったと言えます。
このように味覚が主観的情報だけではなく共有できる客観的情報にも変換できるようになったことで食品産業界にて活躍するのはもちろんのこと、伝統の味、あるいは現在の食文化を後世に正確に繋げていくことも可能になっていくだろうと確信しています。

歯科医師 小松リナ
〈参考文献〉第五版 基礎歯科生理学 医歯薬出版

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水道水フロリデーション

みなさまこんにちは。寒い日が続きますが、風邪などひかずに元気にお過ごしでしょうか?
この季節、様々なウィルス感染などに警戒が必要です。
手洗いうがいを徹底的に取り入れて予防に努めていきましょう!

ところで、多くの方々が、むし歯を作らないようにする方法として、フッ素が効果的だという事は何となく今までに耳にしたことがあると思います。
フッ化物利用の方法には大きく2つに分けることができます。

1、全身応用

経口的に摂取され消化管で吸収されたフッ化物が、歯の形成期にエナメル質に取り込まれ、むし歯抵抗性の高い歯が形成されます。
同時に萌出後の歯の表面にも直接フッ化物が作用します。
水道水フロリデーション、フッ化物錠剤、フッ化物添加食塩、フッ化物添加ミルクが含まれます。

2、局所応用

萌出後の歯面に直接フッ化物を作用させる方法です。
フッ化物歯面塗布、フッ化物洗口、フッ化物配合歯磨剤が含まれます。

今回は全身応用の一つである水道水フロリデーション(水道水フッ化物濃度調整、communal water fluoridation)についてのお話しです。
むし歯を予防するために、フッ化物を利用する方法は、20世紀初めに北米で行われた変色歯の原因調査から端を発したそうです。

歯の表層にあるエナメル質に境界不明瞭の白斑・白濁・白い水平縞が現れたり、中等度になると歯面全体にわたってチョーク様に白濁する現象を歯のフッ素症(斑状歯)といいます。
さらに歯の表面に小さな凹みが加わるとその部位に外来性の色素が沈着し、褐色から黒色を呈することがあります。
しかしながら、むし歯ではないという状態です。

歯の形成期、永久歯では出生から満8歳までの間にフッ化物が高濃度の飲料水を慢性的に摂取すると歯のフッ素症(斑状歯)が発生することがあるそうです。
つまりフッ化物の濃度が高過ぎるとむし歯は抑制されるが、斑状歯になる危険性があるということが分かったのです。
フッ素は自然界に広く分布している元素です。土壌中に280ppm、海水中に1.3ppm含まれています。
地球上の全ての動・植物にも、毎日飲む水やほとんど全ての食品に微量ながら含まれています。
私たちの身体にも存在します。

天然の飲料水中のフッ化物濃度と歯のフッ素症の発現、及びむし歯罹患との関連性が解明され、飲料水中のフッ化物濃度の適正量が導き出されました。
現在世界で実施されている水道水フロリデーションでのフッ化物の至適濃度は国際的に見ると地域による差はありますが、約1ppmという極めて低い濃度です。
ppmとは「100万分の1」の単位で、例えばある物質が1ℓ中に1mg含まれていることを意味します。
使用するフッ化物は、フッ化ナトリウムやフルオロ珪酸というフッ素化合物で、ホタル石や氷晶石、リン鉱石などの自然の鉱物を原料として生産されています。
フッ化物についての水質基準では、WHO(世界保健機関)は1.5ppm以下ですが、わが国の水質基準はその約半分の0.8ppm以下となっています。
また、むし歯予防のための推奨フッ化物濃度については、WHOでは0.7~1.0ppm、米国衛生局では0.7~1.2ppmとなっていて、地域の平均気温の差による飲水量の差から、最適な飲料水中のフッ化物濃度には一定の幅をもたせてあるそうです。

水道水フロリデーションは1945年に米国・カナダの4都市で開始されました。
その後、水道水フロリデーションは、米国内はもとよりオーストラリア・ブラジル・香港・アイルランド・マレーシア・ニュージーランド・シンガポールなど多くの国々や地域に導入されるようになりました。
世界的にみると3億7000万人が水道水フロリデーションを利用していると見積もられています。

しかしながら、先進国では水道水へのフッ化物添加が行われていない国々がたくさんあります。
日本では現在のところ水道水フロリデーションは実施されておりません。
その他、ヨーロッパの国々でも水道水フロリデーションを導入していない国がほとんどです。

ドイツも水道水フロリデーションを導入していない国の一つです。
これは薬物療法にあたるからだそうです。
ドイツでは、フッ化物添加食塩や日常食品などからフッ素の摂取が可能と考えてあえて水道水にフッ化物を添加しない方法を選んだのかと思われます。

毎日の食事の内容に気を配り、口腔内の衛生状態を改善するほうが良い方法だと考えたようです。

そもそも、水道水フロリデーションとは、天然水の中に存在するフッ化物の量を適正な濃度に調整し、その飲料水を摂取することによってむし歯を予防する方法です。
ですから、もし天然のフッ化物濃度が高すぎる場合は適正濃度までフッ化物を除去して調整するという役割があります。
天然水が安全な基準値にあれば問題は無いのですが、議論は続ているようです。
アメリカは国土も広く、気候や地質も地域によって様々です。
ですから、天然水の水質にも様々な違いがあったことから、アメリカは水道水フロリデーションを推奨する国になったのだと思います。
日本でも、アメリカ軍の統治下にあった沖縄県で(1957年~1972年)水道水フロリデーションが実施されていました。

現在の日本の水道水中のフッ化物濃度は低く、むし歯を予防する効果が全く期待できる値でないことは明らかです。
もし、フッ化物の全身応用を考えるのならば食品によるフッ化物摂取を検討すべきなのでしょうか?
政治的な問題もありますので、水道水フロリデーションの実施はわが国では難しいようです。
自主的にフッ化物を摂取するなど、個人の判断に任せられています。

歯科医師
大庭美和子

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バイロンベイからの便り
〜オーストラリアの口腔ケア事情〜

G’ day mate! こんにちは、皆さま!
私は今、オーストラリア最東端の港街、バイロンベイ(Byron Bay)に語学を学ぶために滞在中です。
シドニーやメルボルンほどメジャーではありませんが、ここバイロンベイは、夏で21~28℃、冬でも15~21℃と年間を通じて温暖な気候に恵まれており、素敵なビーチでゆったりと過ごす時間を求め、世界中から多くの観光客が訪れるところなんですよ。

特にケープバイロンベイ灯台(Cape Byron Lighthouse)から眺める海は非常に美しく、平日でも大勢の観光客や地元の人たちが訪れる外せない観光スポットであり、その真っ白で美しい姿は街のシンボル的存在でもあります。
またバイロンベイが知る人ぞ知る徹底した“オーガニックの街”であることも、人々を魅了する一因となっています。
ここではファストフードやコンビニエンスストアのチェーン店舗を見かけることはほとんどなく、代わりに無添加の食材などを販売するマーケットが頻繁に開かれ、多くの人々で賑わっています。

更に、プラスチックフリーへの取り組みも徹底しており、街のカフェでもテイクアウトの際は、無料のプラスチック容器ではなく、当たり前のように有料の段ボール素材で作られた容器を選択する人がほとんどで、居住者の環境問題に対する関心の高さを感じます。
先日、街をお散歩中に、なんとプラスチック製ではなく木製の歯ブラシを見つけましたので、今回は皆様にバイロンベイのオーガニックな口腔ケアグッズを何点かご紹介したいと思います。

まず、こちらは柄の部分が天然素材のコーンスターチで作られた歯ブラシ。環境にやさしいですね。デザインも使いやすそうで素敵です。

次に歯磨き剤。
左側の四角い箱は、歯磨き石鹸で、ケースの中の石鹸を歯ブラシにゴシゴシとこすりつけて使うそうです。
勿論詰め替え用の石験も別売りされていました。
エコですね!

ペーストタイプの歯磨き剤もオーガニック素材のものが何種類も売られています。
こちらは日本でも最近見かけるようになりましたが、舌クリーナーです。特にヨガ愛好家“ヨギーナーの間で流行っているようです。

こちらはデンタルフロス(糸ようじ)。
植物由来の素材で作られたビーガンフロスで、もちろんプラスチックフリー、ガラス瓶に入っています。詰め替え用の糸を購入すれば、容器はそのままずっと使えます。地球にやさしいですね。

これはフッ化物が配合されていない歯磨剤。意外にも、こちらではよく見かけるのですが、それなりの理由があるようです。
今、スウェーデンを始めとする多くの国では、フッ化物配合歯磨剤のシェアが全歯磨剤の9割に達しており、日本でも2017 年には、国際基準(ISO)に合わせ、より高濃度のフッ素(1500ppm)配合歯磨剤の販売が認められるようになりました。

バイロンベイで販売されているこのフッ化物無配合歯磨剤、何だか時代に逆行しているようですが、どうやらスピリチュアルな人々からの需要があるようです。

私が以前、1か月間程この街でホームスティさせていただいたホストファミリーも非常にスピリチュアルなご一家で、当然のようにフッ化物無配合の歯磨剤を使っていました。
フッ素は脳の中の「松果体」という部分を石灰化させてしまうからというのがその理由でした。
彼ら日く、松果体はホルモンの分泌に関与しているだけでなく、目に見えない力や感覚、直観に大きく関わっているそうで、“third eye(第3の目)”と呼ばれているとか。
また松果体は宇宙と交信するための通信機器の役目も果たすため、松果体に良い生活を続けると、地震など地球の変化にもいち早く気づくことが出来るようになるそうです。
本当かな?と思うような話ですが、そのようなことをおっしゃる人々の多いちょっと不思議な街でもあるのです。

私も試しに買ってみました。意外にも歯磨き後のツルツル感がしっかりとあり、いい感じです。
しかし、私もケミカルなものはなるべく摂取したくないと常々思っているのですが、それでもやはり歯のことを考えると、フッ化物配合歯磨剤は必要だと思います。
でも、こちらにいる暫くの間だけですが、フッ化物無配合のものを使ってみようかな。

直観が鋭くなるかしら??
また機会がありましたら、この地球にやさしく、ちょっぴり不思議な美しい街、バイロンベイについて報告させていただきますね。
Cheers! じゃあね!

歯科衛生士 Hatori

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予防歯科の3つの輪
~歯科保険セミナー参加録~

寒中とは思えない暖かな日が続いていますが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
スキー場では雪不足で開業延期や一時休業が相次いでいるそうです。
春先にかけても高温傾向の予測が出ているので、関東では雪が降っても積もる事はないかもしれませんね。
暖冬とはいえ、朝晩の冷え込みは厳しく、日中と気温差が激しい日もあるので体調を崩さいようにお気を付けください。

先日、歯科保健セミナーに参加してきました。
講師の西先生から虫歯や歯周病の予防の重要性について学ばせて頂きました。

まず予防歯科とは、虫歯や歯周病になってから治療するのではなく症状が現れる前に、早期発見に努めるという考え方です。
本格的な予防歯科に世界で初めて取り込んだ国はスウェーデンであり今回スウェーデンと日本との違いを比較したお話を聴くことができました。
一番驚いたのが、日本は1日3回、1回3分、食後3分以内というのが昔からの歯磨き方法でしたが、スウェーデンでは1日2回(その内1回は就寝前に必ず行う事)、1回2分(1500ppmフッ素含有の歯磨き粉を必ず用いる事)、ブラッシング後は唾液の緩衝能(口の中が酸性に傾いてるものを中性に戻す力)がしっかり働くのを待つため2時間歯を休ませるのが基本だということでした。
1日3回磨くことはもちろん悪いことではありませんが、2回磨いた時と3回磨いた時とでは歯周病には効果的ですが虫歯の発生に大差はないという事でした。
3回磨かなければと思うと歯磨きは大変なものだというイメージになってしまいますが2回なら継続できるという意識の違いがスウェーデンでの予防歯科に繋がっているのだと思いました。

虫歯の成り立ちは細菌因子、食物因子(糖質など)、宿主因子(唾液の機能や量、歯の強さなどの個人差)の全てが揃った時に起こるものであるので、この3つの輪が重ならなければ虫歯にはなりません。
逆に歯の健康のためには、正しい食べ方(だらだらと食べない)、歯磨きの仕方、フッ素を利用する、この3つをしっかり行わればなりません。

歯磨きを頑張っている、甘いものを殆ど食べないのに虫歯になりやすい方は、唾液の機能や歯の強さ、口の中の細菌の数が関係している可能性があります。

実際にそれらを調べる検査があります。
原因に合わせた予防法がいかに大切であるか、また歯の喪失数は加齢現象ではなく年齢は関係がないので、正しい原因を突き止め個人にあった予防法がいかに大切であるかを改めて学びました。

そのためには、歯科医院でのプロフェッショナルケアと、自宅で行うセルフケアの両方が大切です。
虫歯や歯周病にならない健康な歯を維持できるよう患者さんのサポートを頑張っていきたいと思います。

歯科医師
沼口友美

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BP製剤を服用中の方へ(MRONJ)

師走も半ばを過ぎ何かと気ぜわしい毎日ですが、皆さまお変わりはございませんか?
街角ではクリスマスイルミネーションが輝いていて、華やかさに心が踊ります。

今回はBP製剤を服用中の方へお願いしたいことがあります。

BP製剤とは

ビスホスホネート製剤(BP製剤)を代表とする骨代謝修飾薬は骨粗しょう症やがんの骨転移に対し非常に有効なため、多くの方が服用されている薬です。
しかしBP製剤などを服用中または服用された経験のある方が抜歯など骨を触らなければならない歯科治療を受けると顎の骨が壊死してしまう場合があり、MRONJ(Medication Related Osteonecrosis of the Jaw)と呼ばれています。
発症率は海外の報告によると0.01%~0.1%となっていますが正確な数字はわかっていないためBP製剤を使用している、またはしていた方は注意が必要です。
国内で販売されているBP製剤は下記のものがあります。

【注射用製剤】 【経口製剤】
アレディア ダイドロネル
オンクラスト ティロック フォサマック ボナロン
ビスフォナール アクトネル ベネット
ゾメタ

など数多く挙げられます。

MRONJとは

BP製剤の服用やデノスマブ、血管新生阻害薬等を服用している状態または服用後、顎骨が壊死してしまう病気です。
初期では無症状なことが多いですが、進行してしまうと痛みや骨髄炎、骨が腐敗してしまうといった症状が出てきてしまい、治りにくくなっています。
症状が出てきてしまう原因として下記のものが挙げられます。

症状

骨露出、骨壊死、痛み、腫れ、オトガイ神経支配領域の知覚麻痺、歯がぐらつく、膿が出るなど様々な症状が出てしまいます。

MRONJの発症にはお口の中の環境が引き金になることがほとんどです。
良好なお口の中の環境を保つことが予防に有効になります。
またBP製剤などの薬を服用する前に歯科の治療を行うことが大変重要になってきます。
MRONJの予防の他、歯周病やムシ歯予防の為にはお口の中の環境を整えることが必要です。
しっかり定期検診を受け健康な状態を保つようにしましょう。
また骨粗鬆症やMRONJに関し、わからないことがあればいつでもご相談ください。

歯科医師
渡辺知明

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源頼朝の死因は歯周病??

寒気が身にしみる季節となりましたが、皆様お変わりなくお過ごしでしょうか。

最近では、テレビの影響もあり歯周病が全身に影響を及ぼす怖い病気と認知されつつあるように感じます。
そんな歯周病に歴史上の人物も苦しめられていたかもしれません。
それは源頼朝です。

1185年、壇ノ浦の戦いで平家が滅亡し、頼朝は征夷大将軍に任ぜられ、独裁権力を握ります。
その後、大江広元ら有能な官僚による統治システムを進めますが、1198年12月27日、相模川で催された橋供養からの帰路、落馬して体調を崩し、翌年1月13日に死去しました。
死因に関しては諸説ありますが、落馬の際は一過性の脳虚血発作であり、一旦は回復したものの、その後も致死的でない発作を繰り返し、水を飲んで誤嚥し、肺炎から敗血症をきたして死亡したのではないかと考えられている説があります。
いずれにせよ、それまでの『吾妻鏡』には頼朝の健康に関する記載がほとんどありませんが、死去約4年前に歯の病に苦しんだという記載があるようです。

もし歯周病であったとすると、単に口腔内の炎症であるのみならず、心内膜炎、アテローム硬化、脳梗塞、虚血性心疾患、糖尿病などのリスク因子となります。
さらに歯周病患者では、口腔内の嫌気性菌自体が誤嚥性肺炎のリスクとなります。

度重なる暗殺未遂、そして幕府設立に至る権力闘争で多くの一族や部下を粛清してきた頼朝の絶え間ないストレスは、歯周病を悪化させ、歯周病が孤独な権力者の全身を蝕んでいったのかもしれません。
もしこの時代に頼朝が適切な歯科治療や口腔ケアを受けることができていれば、倒れて寝たきりになっても誤嚥性肺炎で死んでしまうことはなかったかもしれません。

歯周病は、虫歯と並ぶ歯科の2大疾患のひとつです。
厚生労働省が3年ごとに実施している「患者調査」の平成29年(2017)調査によると、「歯肉炎及び歯周疾患」の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は、398万3,000人で、前回の調査よりも66万人以上増加しました。

軽度のものも含めると、成人の約70~80%の人が歯周病に罹患していると言われています。
口腔内だけでなく全身疾患の予防のためにも、歯科治療と口腔ケアを徹底していきたいですね。

(参考文献:早川智『戦国武将を診る』朝日新聞出版)

歯科医師
末次里沙

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歯磨きの起源と歴史

皆さまこんにちは。歯科医師の小松です。
11月に突入し徐々に冷え込む季節となりましたが、ご体調を崩されてはいませんか。

今回は口腔清掃の起源についてお話ししたいと思います。
皆さまは、いつから口の中を清潔に保つ習慣が始まったのかご存知ですか?
口腔清掃の起源には世界共通のものがあります。
それは医学的見地からではなく、信仰とともに起こったと言われています。
人々は神に祈る前の身を清める作法の一つとして口を漱ぐことにはじまりました。
ギリシャの哲学者アリストテレスがアレキサンダー大王のために書いた『健康の書』にも記載がある通り、紀元前から口腔清掃の習慣があったことがわかります。
そして歯磨きの歴史について実証されている世界の最も古い記録は紀元前1500年頃のエジプトのパピルスにあるものと言われています。
また、日本における歯磨きの起源は6世紀ごろの仏教伝来とともにあります。
B.C.5〜6世紀にインドで起こった歯木(しぼく)と呼ばれる木片を咬砕したもので歯面を擦り始めたのが始まりとされています。
仏教が日本に導入された頃には、僧侶、公家などの上流階級が身を清める儀式として歯磨きを行なっていました。
そして江戸時代になると、歯木は房楊枝へと形を変えて商品化されました。
また、この房楊枝には3つの働きがありました。まずブラシ状になっている部分で歯を磨き、反対側の尖っている部分で歯と歯の間の汚れを取り除きます。
さらに柄のカーブした部分で舌をこすり、舌の掃除もしていたそうです。

また以前では塩を用いて歯磨きをしていましたが、歯磨き粉(砂の歯磨剤)も普及し庶民にも歯磨きの習慣が浸透していきました。
しかし当時の人々の口腔衛生管理の意識は現在に比べて低く、知識も少なかったため虫歯や、歯周病になって歯を失う人が多かったそうです。
江戸時代の俳諧師 松尾芭蕉もその一人です。自身の歯についての句を次のように詠んでいます。
「むすびより はや歯にひびく 清水かな」
これは、手で清水をすくい、口にいれようとするとその冷たさが歯にしみる気がするといった意味です。虫歯や歯周病により冷水のおいしさも十分に味わえなかったことを嘆いているように思われます。
一方で、次のようなお話もあります。
養生訓など健康に関する本を著した江戸時代の儒学者 貝原益軒は、83歳にして歯を一本も失っていなかったそうです。
養生訓にて「毎日、時々、歯を叩くこと36度すべし、歯かたくなり、虫くはず、歯の病なしと」と述べています。
これは12世紀に中国で記された「養生方」に出てくる「叩歯(こうし)」の歯のケア方法に由来します。叩歯とは、歯をカチカチ鳴らすことで歯の骨を丈夫にする噛む健康法で、虫歯にもならないと言われていました。
このように、現在のような歯ブラシや口腔清掃方法が確立されるまでは多くの人が虫歯や歯周病で苦しみ、独自の健康法が編み出されていたのだと想像できます。

歯ブラシの登場

江戸時代末期の開国により明治時代初期には現在の形のような歯ブラシが西洋文化とともに流入してきました。
日本で初めて発売された歯ブラシが、この西洋歯ブラシを真似て作られた鯨楊枝とよばれるもので、鯨の髯を柄にして馬毛が植えられていました。
そしてこの歯ブラシという言葉が最初に使われたのは大阪盛業会社が明治23年頃『歯刷子(はぶらし)』という名称で出品してからの事で、さらに商品名として歯ブラシという言葉が使われるようになるのは大正3年、『万歳歯刷子』が登場した後からでした。
さて、この歯ブラシの登場はとても画期的な出来事であったと思われますが、当時は人々の関心が低くすぐには浸透しませんでした。
その理由としてあげられるのが、動物の骨と毛という素材で作られた馴染みのないものであった点でした。
また歯ブラシは高価なものであり、文明開化後にもお歯黒の風習を続けている女性には房楊枝は歯の手入れに欠かせない必需品とされていた為、なかなか浸透せず、一般に普及したのは日常生活の洋式化が進んだ明治時代の後半から大正にかけてのことでした。
余談ですが、このお歯黒をつけるという習慣は既婚婦人の証明であったことはよく知られていますが、その他にも虫歯予防の見地からも有効であったとされています。
このことをヒントに、お歯黒に使われていた成分で子供の虫歯予防・進行防止を目的とする歯科用薬剤が作られました。
しかし最近の日本では審美性の観点からあまり使われなくなりました。

お話を戻します。
明治時代に歯ブラシが西洋文化とともに流入し、日本でも歯ブラシの生産が始まりました。
歯ブラシが脚光をあびるようになるにつれてブラシ製造を専業とする業者も徐々に増えブラシ製造技術を発展させてきました。
しかし発売当時は全て手作業で行われていたため作業効率が悪く、また歯ブラシも現在のような形や素材よりも劣るものでした。
そこで歯ブラシの企業は、より清掃性の高い歯ブラシの開発を求め大学病院などと共に研究を積み重ね、昭和26年頃になると現在のようなナイロンと樹脂からなる歯ブラシが登場しました。
ナイロンと樹脂は大量生産が可能であるため画期的な発見であったと言えます。
さらに現在では年齢や用途によって歯ブラシの形や硬さなどが異なる多くの種類の歯ブラシが誕生しました。

また清掃補助具として以下のものも誕生しました。

・舌ブラシ 舌の上の口臭の原因になる舌苔を取り除く
・タフトブラシ 重なった歯の隙間や1番後ろの歯の奥など磨きにくい箇所を磨く
・歯間ブラシ 歯と歯の間の清掃や被せ物(ブリッジ)の下の部分を磨く
・デンタルフロス 歯と歯の隙間を磨く

さらに、歯磨剤も砂などが含まれた歯を磨くためだけの物理的歯磨剤から歯を強くするためにフッ素などが配合された化学的歯磨剤に進化していきました。
そしてこのような清掃器具の研究開発の要素にブラッシング方法が加入していき、近年では日本歯科医師会による口腔衛生の向上を普及、啓発する運動や厚生労働省による歯科疾患の実態に関する調査なども行われるようになりました。
詳しくはこちらをご覧ください。

日本歯科医師会 啓発運動一覧
https://www.jda.or.jp/enlightenment/
厚生労働省 歯科口腔保健関連情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/shikakoukuuhoken/index.html

まとめ

歯磨きの歴史はいかがでしたか?人類は紀元前から口腔清掃をはじめ、清掃器具に関しては、より適した形をもとめ技術を磨き改良を重ねることで現在の形が人々に定着しました。
歯磨剤や清掃補助具に関しても日々研究が進んでいます。
このように便利に健康が手に入れられる時代であるからこそシチュエーションに合った清掃器具を選択し、正しい使い方をマスターすることが大切です。
全身の健康と関係の深い歯を守るために、日々のオーラルケアを大切にしましょう。

(参考文献 改訂歯ブラシ事典・見て楽しい歯的博物館)

歯科医師 小松リナ

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BiPSEE医療XR

 

空は高く澄み渡り、さわやかな季節となりましたが、皆様におかれましては健やかにお過ごしのことと存じます。

今回は、治療に不安があるお子さんや保護者の方々のために開発された「BiPSEE医療XR」についてご紹介します。
BiPSEE医療XRは、ゴーグルと特殊なスマートフォンを使用して、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を体験できる装置です。
歯科では、待合室からユニットへの移動や、待ち時間、治療中などお子さんが不安や緊張を感じる場面で有効に用いることができます。

 

画像コンテンツとして、画面のなかを魚やくらげが動き回る「海のいきものとあそぼう」、蝶やとんぼが飛び回る「きのこの森たんけん」、雪の結晶がひらひらと舞い落ちる「毎日がクリスマス」があります。当院の患者さんには、「海のいきものとあそぼう」が一番人気でした!今後も面白いコンテンツが増えることを期待します。

また、トムとジェリーのアニメーションも人気で、夢中になりすぎて治療が終わったのに気づかないお子さんもいました。

公式HPによると歯科VR体験後には保護者からも前向きな回答が得られたようです。

当院でも体験された患者さんの多くにご好評をいただきました。
興味がある方はぜひ下記URLをご参照ください。

https://www.bipsee.co.jp/

歯科医師
松崎麻実

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WDAI

先日ストローマン主催のインプラントのセミナーWDAIベージックコースに参加してきました。
WDAIは“Woman Dental Academy for Implantology”女性歯科医師が学びやすい環境を目指したもので、講師の先生は田中道子先生を始め、柳井知恵先生、立川敬子先生、渥美美穂子先生の他、臨床経験豊富な女性歯科医師の講師の先生方か多くいらっしゃいました。
そこで学んだことや感じた事など交えながら以下でご紹介していきたいと思います。

セミナーは合計2日間行われました。
1日目はインプラント学概論、インプラントに必要な局所解剖、インプラント診査診断、治療計画、外科の基本などの講義がありました。インプラントを行う上で重要な動脈や神経、起こりうる合併症、偶発症など改めて学ぶことができました。
患者さんによって残っている歯の数や骨の状態は様々であるため、それを調べるための診査、診断、患者さんへの説明と同意がいかに重要であるかも学ぶことができました。
また、小林先生によるインプラント器具の特徴の基本や今回はストローマン会社でのセミナーであったため、ストローマン会社のインプラントの特徴をマニュアル本を参照しながら学びました。
メーカーによる違いなどが詳しく聴けるのはセミナーならではと感じました。初心者でもとても分かりやすく面白く教えて頂きました。

午後はストローマン社製、BLT、TL埋入のインプラント外科実習を行いました。
外科実習では柳井先生によるデモンストレーションのもと、顎模型を用いてインプラント体埋入実習を行いました。
BLTとはボーンレベルインプラントのことで、アバットメント(被せもの、歯として見える部分とインプラントを接続させるもの)が骨の中のレベルにあるもの、TLとはティッシュレベルのことでアバットメントの接続が骨の上、歯肉のレベルにあるものを言います。今回はこの二種類のインプラント体の埋入実習をしました。
また歯肉付きの模型であったため切開の入れ方から縫合の仕方まで、臨床経験の話を交えて頂きながら行うことができました。

2日目はインプラントの補綴の基本、デジタルデンティストリー、ガイデットサージリー(インプラントを埋入する際の指標となるもの)、 光学印象のデモンストレーション、CAD/CAM(コンピューターで設計、作製するもの)についての講義がありました。
デジタル化の普及により印象材(型取りの材料)が不要となり不快感の軽減や嘔吐反射の方にも使用でき、印象を画面上で即時に観察することやデータを送信、共有できることが可能になった事でIOSの優位性を学ぶことができました。

午後は補綴実習、オープントレー法による印象採得がありました。
インプラントの型取りには用いるコーピング(型取りに使用する部品)によってオープントレー法とクローズドトレー法の2種類があります。

印象からコーピングの着脱をしないため一般的に印象精度が良好とされているオープントレー法を用いることが多いですが、コーピングの長径が長いため、口を大きく開ける事に制限のある方にはクローズドトレー法を用います。
今回は印象精度をあげるためのコツや注意点をご指導頂きながらオープントレー法を行いました。

インプラントの歴史は50年になりますが、講義や実習が大学取り入れられたのは最近であり、大学時代にインプラントを学んだ事のなかった先生方やこれからインプラントを臨床に取り入れていきたい先生方など様々な理由で参加していました。
私は現在研修医なので大学での座学メインのインプラント治療についてしかわかりませんでしたが今回のセミナーで基礎的な知識と共に具体的な症例を見ながらの講義や実習があったため臨床的な知識を身につけることが出来たと思います。


また講師の先生は皆女性という事もあり、女性歯科医師ならではの考え方などを聴くことができました。

これまで、歯がなくなってしまったら入れ歯かブリッジの二択になってしまっていたところにインプラントが加わることで、治療の選択肢の幅が広がるのだと感じたのと同時に今後習得すべき技術だと思いました。

教科書で学んできた事が基本なのはもちろんですが、それだけではなく臨床での実際や経験談を聴き、また臨床で活躍される先生方を目の当たりにし今後のモチベーションの向上になりました。今回のセミナーで学ばせて頂いた沢山のことを活かしていけるよう日々精進していきたいと思います。

歯科医師 沼口友美

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口腔機能の衰え
《オーラルフレイルとは》

皆さまこんにちは。
厳しかった夏の日差しも少しずつ秋風とともに和らいでまいりました。
夏のお疲れで体調を崩されてはいませんか?

今回は「オーラルフレイル」についてご紹介したいと思います。
皆様は「フレイル」という言葉を耳にしたことはございますか?

※frailtyの概念の日本語訳はこれまで虚弱が使われてきましたが現在では概念との整合性をとるため日本老年医学会から提唱されたフレイルが日本語訳として用いられています。

フレイルとは心身機能が落ち、介助が必要になる一歩手前の状態をいいます。
この状態のままでいるとやがては寝たきりや介助が必要な状態になってしまいます。
しかし、早期に原因を把握し適切な介入をすることで再び健康を維持し、自立した状態へ戻すことができるというものがフレイルです。

またフレイルは身体的な衰えのほか、心理的や社会的な衰えなどの多面性をもちます。

※ロコモティブシンドローム…運動器の障害により歩行困難など要介護になるリスクが高まる状態
※サルコペニア…加齢や疾患による筋力が低下した状態

オーラルフレイルの説明と問題点

そして、口の衰えを特にオーラルフレイルといいます。
口は生活に欠かせない機能を多く有しています。
しかしオーラルフレイルによって様々な障害が出てきてしまいます。

たとえば、虫歯や歯周病による歯の喪失に対し適切な治療がされず放置された状態が続くことで口の機能である咀嚼機能(食べ物を噛む能力)が衰え始めます。
咀嚼機能が衰えると噛めない食品が増加し、適切な栄養素(タンパク質等)を摂ることができなくなり、身体に低栄養をもたらします。
低栄養状態になると筋肉量も低下しさらなるフレイルの悪化に繋がります。
また咀嚼しなくなることで、認知機能の低下にもつながると近年言われています。
さらに、オーラルフレイルでは、あえて噛みやすい食事を選択することで舌や口の周りの筋肉、食べ物を飲み込む為の筋肉が使われにくくなり、むせて咳き込むことが多くなります。
また会話の際にはうまく舌が回らなくなる等の症状が見られます。

このように口と心身の健康は互いに密に関連し、影響し合っていると言えます。
しかし、身体にトラブルが起こった場合、医科にはすぐに受診しても口のトラブルは所詮死ぬわけではない、と軽視される傾向があり、些細なトラブルではなかなか歯科を受診されない方も多いのではないでしょうか。
ではここで下にオーラルフレイルかどうかのチェックシートがあるので、1つチェックをしてみてください。

いかがでしょうか。オーラルフレイルの危険性はありましたか?

しかし、冒頭でもお話ししました通り、オーラルフレイルは元の健康な状態に戻ることができる「可逆性」の性質を持っています。
即ち、不可逆性である接触嚥下障害や咀嚼機能不全になる前に、早急にフレイルの段階で介入し改善することが重要になってきます。
ではどのような対策があるのでしょうか。

対策改善策

オーラルフレイルにならないための対策または、なってしまっている場合に出来る改善策、それは歯を残すことと口腔機能の向上です。
厚生労働省によるオーラルフレイルの提言をうけて平成元年に8020運動が生まれました。
8020運動は80歳で20本以上の歯を保ち、何でも噛んで食べられることを目指して展開されてきました。
歯を失う主な原因は歯周病と虫歯によるものであり、これには日々の適切なブラッシングとかかりつけ医による定期的なクリーニングと検診を受けることで予防が可能です。
また8020が達成できなくても、失った歯をブリッジや入れ歯で補綴し、口の中の状態を良好に保つことで食べられる口の維持につとめることが重要です。
また栄養を十分摂取するために、歯を残すことと同時に噛み砕き、飲み込むといった口の周りの筋肉の機能の向上にも目を向ける必要があります。
そのためには普段からの口周りの筋肉を鍛えたり、食べ物を口の奥へ運ぶ潤滑剤である唾液の分泌の促進が重要になってきます。
例えば前者には〈パタカラ体操〉というものがあります。
それぞれの発音でどこの筋肉を使っているか意識することで自分はどこの筋肉が落ちているのかを認識することができます。

また、唾液を分泌させ、円滑な食事をするために、〈唾液腺マッサージ〉があります。
唾液は唾液腺という分泌腺から分泌されますが、加齢や服用されている薬の副作用、ストレスがかかったり緊張などで出にくくなります。
唾液が出にくいと感じている方は下図のマッサージ方法をお食事の前にぜひ試してみてください。
しっかりと唾液が分泌されれば食べ物の味を感じ、美味しく食べることができます。
そしてこれらを継続することがオーラルフレイル改善の近道となります。

さらに、意識的に咀嚼や口唇、舌の運動を促す食事を選択することが大切です。
低下した咀嚼を中心とした摂食・嚥下機能に関わる筋肉を回復させることで摂食・嚥下機能だけではなく全身の筋力や身体機能も回復し、外出、食事、会話を楽しむことができ、社会参加への自信がつくことで精神心理的フレイル、社会的フレイルからも脱却できると考えます。

まとめ

現在我が国は世界で最も高い高齢化率を有しており、2025年には団塊の世代がすべて、75歳以上となり、2040年には高齢化のピークを迎えようとしています。
その為今後は平均寿命と健康寿命の差を減少させ、元気に長生きすることが大切です。
ご高齢になってからすでに衰えてしまった口の機能を回復するのは難しくなってきます。
そのため、口の中の些細な異変にご自身で早く気がつき、定期的な歯科でのオーラルフレイルのチェックをお勧め致します。
また、ご自身や歯科にて口腔機能訓練のみを行うよりも、日々の食事を通じて口腔機能を改善する方が栄養状態も改善することから効率的であると考えます。
生きることは食べること、しっかり噛んでしっかり食べることが大切です。
現在、飲み込みづらい、口が渇くといった症状でお困りの方、さらに口腔機能訓練をもっと知りたい等、少しでもオーラルフレイルについて気になってる患者様がいらっしゃれば、お気軽にご相談ください。

歯科医師小松リナ

〈参考文献〉
日本抗加齢医学会雑誌アンチエイジング医学2016
老年歯科医学用語辞典第2版
マンガでわかるオーラルフレイル

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